大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和55年(ワ)1454号 判決 1981年8月03日

原告

大江守

ほか一名

被告

千田博司

ほか一名

主文

一  被告らは各自、

(一)  原告大江守に対し金五三万七九三六円および内金四八万七九三六円に対する昭和五五年六月二三日から、内金五万円に対する昭和五六年八月四日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  原告大江永見子に対し金四九万八七八四円および内金四四万八七八四円に対する昭和五五年六月二三日から、内金五万円に対する昭和五六年八月四日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告らの、その一を被告らの負担とする。

四  この判決は原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは連帯して原告大江守に対し六七九万九五六九円原告大江永見子に対し四七二万〇三二六円およびこれらに対する昭和五五年六月二三日以降支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の求めた裁判

一  請求原因

1  訴外亡大江利幸(以下利幸という)は、次の交通事故により死亡した。

(一) 事故発生日時 昭和五五年六月二三日午前一一時八分頃

(二) 事故発生地 京都市右京区嵯峨野清水町一一番地先路上

(三) 加害車両 普通貨物自動車登録番号京四四あ四四〇二

(四) 運転者 被告千田博司

(五) 事故の態様

被告千田運転の普通貨物自動車(以下被告車という。)は、前記場所の道路東側(進行方向に向つて右側)にある書店前に駐車していたが北に向つて発進するに際し左後部荷台の方に気を奪われたまま斜め左前方に発進したため約四メートル前進したところで自車右前部を折から同所付近道路東端で遊んでいた利幸(昭和五三年六月二九日生)に衝突させ右前輪で轢過し、頭蓋骨骨折による脳挫傷により即死させた。

2  帰責事由

(一) 被告千田博司は、進路前側方注視義務を怠り発進した一方的過失により利幸の存在に気づかず自車を衝突させたものであつて、民法七〇九条の不法行為責任がある。

(二) 被告フヂタ運送株式会社は、当時被告車の保有者であり自己の運行の用に供していたから、自賠法三条により右事故の結果発生した損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(一) 葬儀費用等

原告大江守は利幸の事故死により合計一八〇万八〇三八円の葬儀費用等を支出した。

(二) 逸失利益と原告らの相続分

利幸は、事故の六日後に満二歳になる発育極めて順調な男子であり、事故にあわなければ満一八歳から満六七歳に達するまで稼働できたはずであり、その間の収入としては昭和五三年度賃金センサス男子労働者産業計、企業規模計、学歴計、年令計の平均給与額に五パーセント加算した年間所得三一五万四九三五円についてその間の生活費を収入の五割とし、就労可能年数をライプニツツ式(加算率八・三二三)により中間利息を控除して計算するとその逸失利益は一三一二万九二六二円となる。

原告らは、利幸の父母で他に相続人はいないから右逸失利益の賠償請求権を各二分の一宛相続した。

(三) 慰藉料

原告らは、利幸の死亡後も良典(四歳)、佐知(一歳)の一男一女はあるが利幸が極めて健康で明朗素直な性格の子であり二歳の誕生日を直前にひかえた最も可愛い時期であつただけに非常な愛情をそそいでいたところ突然無残な事態にあつて精神的虚脱状態に陥り毎日涙にくれており原告らの非痛な心情は言語に絶するものがある。それにもかかわらず被告らは損害の支払をしないばかりかまつたく不誠実な態度に終始している。従つて、慰藉料としては原告らについてそれぞれ六〇〇万円が相当である。

(四) 損益相殺

右損害のうち、訴外安田火災海上保険株式会社より自賠責保険金として一六九二万円の支払を受け、これを原告両名の前記各損害に八四六万円づつ充当した。

(五) 弁護士費用

原告らは、被告らが任意の弁済に応じないので訴訟代理人に本件訴訟の提起および進行を依頼し成功報酬として認定額の各一五パーセントの割合で第一審判決言渡時に支払う約束をしたので原告大江守について八八万六九〇〇円、同大江永見子について六一万五六九五円の各支払を求める。

4  よつて、被告千田博司に対しては不法行為に基づき、被告フヂタ運送株式会社に対しては自動車損害賠償保障法三条に基づき各自、原告大江守は、葬儀費用、逸失利益相続分、慰藉料、弁護士費用の合計額から損益相殺額を差引いた六七九万九五六九円、原告大江永見子は、右同逸失利益相続分、慰藉料と弁護士費用から損益相殺した残額四七二万〇三二六円、およびこれらに対するそれぞれ不法行為日である昭和五五年六月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、原告主張の日時場所において被告千田運転の普通貨物自動車が利幸を轢過して死亡させた事実は認め、その余の部分は否認する。

2  同2の(一)(二)の事実のうち、被告フヂタ運送が被告車の保有者であることを認め、その余は争う。

3  同3の事実のうち、原告らが相続人であること及び原告らが自賠責保険金一六九二万円を受領していることは認め、その余の事実を否認する。

三  被告らの主張

1  事故現場は両側に商店が並ぶ幅員四・三メートルの南北に走る道路であり、被告千田は道路東側の万星堂書店で荷物の積み降しをした後立話をして運転台に入り発進させたがその際被告車と前方の駐車車両との間に人影はなかつた。そこで、同被告は道路幅員が狭いので左後方や道路左側を注意しつつ左転把して発進したところ、利幸を轢過した。事故当時被告千田が発進すべく左側を注意しながら徐行しているとき利幸がそれまで遊んでいた空地から歩いて出てきたものと思われる。

以上の事故状況からすると被告千田に運転上の過失はなく、仮にあるとしても交通頻繁な路上において幼児一人で遊ばせていた原告らの過失は大きく四〇パーセント程度の過失相殺をなすべきである。

2  原告らが自賠責保険より受領した額は一六九五万五七〇〇円であり、うち治療費が三万五七〇〇円、死亡損害金が一六九二万円である。

第三証拠〔略〕

理由

一  (事故の発生と被告らの責任)

昭和五五年六月二三日午前一一時八分ころ京都市右京区嵯峨野清水町一一番地先路上において被告千田運転の普通貨物自動車(被告車)が利幸を轢過し死亡させた事実および被告フヂタ運送が被告車の保有者である事実は当事者間に争いがなく、右事実と成立に争いのない甲第一、第二号証、乙第一号証、いずれも昭和五五年七月二日頃西田伸一が本件事故現場付近を撮影した写真であることに争いのない検乙第一ないし第四号証及び原告大江守、被告千田博司各本人尋問の結果を総合すると次の事実を認めることができる。

本件事故現場は、幅員約四・三メートルの南北に通ずる道路で一方通行の規制はなく交通量が比較的多い。道路の東側には南から北に向つて順次万星堂書店、アリス美容院と並びその北隣は空地で角地となつており、空地の東側に原告らの店舗兼自宅がある。

被告千田は被告フヂタ運送の業務で被告車を運転し道路東側の万星堂書店前路上で右(東)側に接して北向きに駐車し積荷を降して後発進しようとしたが、被告車の北前方約四メートルに軽四輸車一台が南向きに駐車しているのを認めたのでこれを避けるため左後方の安全を確認しながら北に向つて徐々に発進し、再び視線を前方に戻したが利幸が自車直前に出てきているのに気付かずそのままハンドルを大きく左に切つて約四メートル前進したところで自車の右前部を利幸に衝突させて轢過し、同人を脳挫傷、頭蓋骨骨折の傷害により死亡させた。

当時、父原告大江守は仕事中であり、母同大江永見子は長女佐知(昭和五四年一一月一四日生)の守りをしており、利幸はその間に原告ら宅西側の空地に一人で遊びに行き路上で被告車が発進を始めている直前に出て行つて右事故に遭つたものである。

以上の事実を認めることができ他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右事実によると、被告千田には被告車を発進させるに際し前方左右の安全を確認すべき注意義務があつたのにかかわらずこれを怠り、右(東)側に寄せて駐車していたことから左後方の見通しが悪く同方向のみに注意を奪われたため左右前方の安全を十分確認しないまま発進した過失がありその結果本件事故を惹起したから、不法行為者として被害者に対し損害賠償をすべき責任があるものというべきである。

また、被告フヂタ運送が被告車の保有者であることは当事者間に争いがなく、前記のとおり同被告会社の業務に従事していた運転者被告千田に過失が認められる以上同被告会社は本件事故につき運行供用者として損害賠償責任を負うものというべきである。

他方事故現場は比較的交通量の多い道路であるから、二歳未満の幼児が右道路付近で遊ぶのは極めて危険でありその監護者としてはこのような幼児が一人で路上に出ることのないよう監督すべき注意義務があるにもかかわらず、利幸の両親である原告らは利幸が路上に出ているのに気付かず放置していた不注意により同人が前記事故に遭つたのであるから過失があり、同原告らの過失は監護義務者の過失であるから、被害者側の過失として斟酌すべきであり、原告ら被害者側の過失割合は右事情を総合して二割とするのが相当である。

二  (損害) 成立に争いのない甲第三号証、原告大江守本人尋問の結果と弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  (葬儀関係費) 原告大江守は利幸の父親として葬儀の喪主となり葬儀等の費用として一八〇万八〇三八円を出費したことが認められるけれども右のうち六〇万円が本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

(二)  (逸失利益) 利幸は昭和五三年六月二九日生の健康な男児であつて満一八歳より六七歳までの四九年間就労可能でありそのホフマン係数は一七・〇二四(満二歳として計算する。)である。昭和五四年度賃金センサスにおける企業規模計、産業計、学歴計男子労働者平均給与額一〇万九九〇〇円、同年間賞与等一〇万五五〇〇円であるから昭和五五年度のそれについてはこれに五パーセントの加算をして計算し生活費を五〇パーセントとするのが相当である。そうすると、利幸の逸失利益は一二七二万九八二三円となる。

(10万9900×12+10万5500)×105×0.5×17.024=1272万9823

原告らが利幸の相続人として右賠償請求権を相続したことは当事者間に争いがなく、その相続分は各二分の一宛であるから原告らの請求しうべき承継額は各六三六万四九一二円となる。

(三)  (死亡までの治療費) 三万五七〇〇円。右同原告ら各一万七八五〇円宛。

(四)  (慰藉料) 前記事故の発生の態様、利幸の年齢、生活関係、原告らの社会的地位など諸般の事情を総合斟酌すると原告らの精神的損害を慰藉するには原告らに対し各四五〇万円宛をもつて相当と認める。

三  (損害の填補) 以上によると、本件事故により請求しうべき損害は、原告大江守について一一四八万二七六二円、同大江永見子は一〇八八万二七六二円となるところ、前記被害者側の過失割合に従つて各二割を減額すると、原告大江守の損害額は九一八万六二一〇円、同大江永見子は八七〇万六二一〇円となり、原告らは本件事故に関し自賠責保険より一六九二万円の限度で給付を受けたことは当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果によると、この外治療費三万五七〇〇円を受領していることが認められるからその合計一六九五万五七〇〇円を原告らに按分比例して充当すると、原告大江守については八六九万八二七四円を控除した残額四八万七九三六円、原告大江永見子については八二五万七四二六円を控除した残額四四万八七八四円の各支払を求めうることになる。

四  (弁護士費用) 本件事案の内容、審理の経過、認容額に照らすと原告らが支払う弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係のある損害額は原告らについてそれぞれ五万円とするのが相当である。そして、右損害額に対する遅延損害金の起算日は判決言渡日の翌日とするのが相当である。

五  よつて、本訴請求のうち被告らに対し各自、原告大江守が五三万七九三六円およびこれにより弁護士費用五万円を控除した四八万七九三六円に対する事故発生の日である昭和五五年六月二三日から、うち五万円については同五六年八月四日から各支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払、原告大江永見子が四九万八七八四円および右同うち四四万八七八四円に対する昭和五五年六月二三日から、うち五万円については同五六年八月四日から各支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条一項、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田秀文)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例